マランツCD-16の改造をサウンドゲートに依頼した。主な改造点は2点。

●Part1:クロックを0.1ppmに換装。(Goldグレード)
Part2:SP/DIF出力に加えて、i2sデジタル出力端子を増設。

 ここではPart1、つまりクロック換装したCD-16を従来のSP/DIFデジタル出力でパーペチュアルのDACであるP-3Aに接続して聞く、という状況の結果を報告します。


 まず、僕は「デジタルはほどほどで良い。」と思っている人間です。なぜかというと、

1.これまであちこちでワディアやdcs、クレル、エソテリックをはじめいろいろ聞かせてもらったが、どっとお金をかけた割には、何かが不足している、という物足りなさが常に残ったこと。

2.アナログはあるグレード以上の音が出るようになり、良いLPを買えばそれだけの感動が得られる状態になったので、そちらが中心になりつつあること。

3.しかし、マランツSA-12S1を通じて最近SACDの良さも分かってきたし、できれば【あまり大きな予算を投じることなく】CDでも良い音を聞きたいと改めて感じていたこと。


という状況の中で、「クロック」あたりがブレークスルーかもしれないと関心を持ち、比較的少ない予算で改善をはかろうとチャレンジしてみたものです。


1.クロックの意味


 デジタル機器での「クロック」の意味については、以下のサイトに詳しい解説があります。
  http://www.hh.iij4u.or.jp/~tokumi/archive2/sync1.html

 え~、素人の怖いもの知らずで、以下半可通に整理してみます。

①マスタークロック(MCK/MCLK)
 クオーツ(水晶発振子)から供給される、機器内のクロック。ここから、各種回路の動作クロックや下記のビットクロック、が分周・生成される。サンプリング周波数の256倍(256fs)や384倍(384fs)などが用いられ、機器によって周波数が異なる。

②ビットクロック(BCK)
 オーディオの場合、サンプリング周波数の64倍(64fs)。各ビットの識別・抽出に用いられる。つまり、デジタル信号の0と1をどこで読み取るかというタイミングを決定する。

③ワードクロック(WCK/WCLK)
 サンプリング周波数と同じ周波数。機器間の同期結合に用いられる他、ステレオの両チャンネルの識別などに用いる。外部同期でワードクロックを受けた機器は、これをリファレンス(基準)として、マスタークロックやビットクロックを生成する。

 ここで確認しなければならないのは、今回換装したクロックは何か、と言うことです。それは、マスタークロックを生成するクオーツ(水晶発振子)の事を指します。いわゆるクロックモジュール。

 そして、クロックとはサンプリングのために必要な信号で、スピードなどの同期ではない事に注意されたい!LPなどの場合は多少スピードが動いても、音楽は音楽である。しかし、クロックがずれたら、再生される信号は似ても似つかない雑音になってしまう。ジッターの怖さはここにあるのだろう。
 

2.再生専用機器のクロック
  ~民生機ではなぜ外部クロックが必要とされなかったか。


 SP/DIF(75Ω)やAES/EBU(110Ωの1本のケーブルでデジタル伝送した場合、ではクロックはどのように扱われるのか?結論としては、64ビットのデータがクロックで変調した状態で送り出され、受けた機器はここからデータを復調する際に、ワードクロックを抽出し、それをPLL回路に入力して内部マスタークロックを生成する。

CDプレーヤートランスポート (CDP) DDC DAC

 上記の図でトランスポートがマスターとなり、DDCやDACはスレーブとなって動作している。これは音楽信号の再生という単一のデジタル入力の連鎖だから出来ることである。

 ところが、様々な映像と音声を同時にパッケージにしていくAVなどのMA(マルチオーディオ)環境では複数の入力機器のクロックの同期を取らなければならない。この場合、マスター&スレーブのシンプルな流れにはならないので、外部マスタークロックで統一してやらないと、ワード同期が取れない。プロ用機器で外部マスタークロックが必要となるのは、まずここに理由がある。

3.クロックの精度とは何か?

 プロ用機器でもルビジウムなどクロックの精度アップが研究されているようだ。しかし、外部クロックにすることと、精度アップは同じではない。
 内部クロックでもマスターとなる機器のクロック精度が高ければ、全体としてのクロックの精度は高くなる。ただし、SP/DIF(75Ω)やAES/EBU(110Ωの場合はPLL回路が入るので、この品質に影響されるようだ。

 ここで重要な問題に入る。クロック精度をppmで表示しているがこれは、
①規定周波数
②温度変化
③その他の環境要因
のどれに対する変化率の誤差精度を指すのか?という問題である。
 クロックの場合は「温度変化」に対する精度を指す

 精密なクロックは非常に量産が難しいものだそうで、温度補正用のデーターをROMに書き戻してやってはじめてトータルな製品となる、いわばハンドメイド製品であるからだそうだ。

 0101のアルゴリズムと、電子機器の中を流れるいわゆる「デジタル信号」は同じではない。完全なアルゴリズムは人間の頭の中にしかない。つまり、アナログ回路を通っている限り、ゼロ時間で立ち上がり、立ち下がる完全なパルス信号はあり得ない。必ず何らかの誤差がある。そのパルスの根元のクロックにさえ誤差があるのだ。言い換えると、デジタル回路は超高周波アナログ回路なわけだ。そこに職人の技があるというのが、今回の一番のお勉強。

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※サウンドゲートのHPを見ると、複数のppm表示とともにSilver、Gold、Specialの3グレードに分けられているが、その中に重要な文章がある。
「音質はグレードで変わり、精度で音質は決まりません。」

 では、精度が良ければ音質も良いのではないのか?

 サウンドゲートによると、発振周波数の周囲に分布する「位相雑音」が音質に大きな影響力を持つそうだ。ルビジウムも精度は高いが、位相雑音が裾を引いて分布しているようで、直ちに最高とは言えないようだ。
 また、温度補正はROMに書きもどし出来るそうだが、位相雑音自体は修正がきかないそうだ。
 精度が高いものは位相雑音も少ない傾向はあるらしいので、とりあえず高精度なものは良い可能性が高そうだ。現実に、プロ用機器でもマスタークロック導入にはいろいろと聞き比べしなければならないのは、「この辺にも原因があるのかもしれない。

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4.P-1AとP-3A

 以上のことからSP/DIFでもクロック換装の効果は発揮できるようだ。ではなぜCD-16からP-3Aに接続して、P-1Aを間に噛まさないのか?
 サウンドゲートにP-1Aを調査してもらったところ、かなりお金のかかった回路と部品であるそうだが、内部でいくつものクロックを分周・生成しているので、これを経由するとクロックアップの効果が薄れる可能性があるという指摘があったためだ。
 96KHz/24bitへのアップコンバート方式はP-1Aではアルゴリズムを用いたDSPベースで、電気回路的なアップコンバートであるP-3Aより精度が良さそうで、そちらのメリットもあるようだが、シンプルな方が鮮度は良いに決まっているので、こちらを採用したわけだ。
 なおデジタルケーブルはワンダーリンクⅠを使用した。
 
 この段階でP-1Aはデジタル入力インターフェースの役割となり、SA-12S1からのデジタルアウトはアコースティック・リヴァイブのスーパーアニール単線デジタルケーブルでP-1Aに接続している。更に、P-1AとP-3Aの間は、リヴェレイション・オーディオのi2sケーブルで接続している。


5.試聴結果

 多少の整理は出来たものの、理屈だけでは何にもならない。要は音がどう変わったかだ。音楽をどういう風により聴けるようになったかだ。特にこれまでCDでクラシックを聴く気にならなかったので、その点がどうなるかが関心事だ。

 ブレイクインに30時間程度は必要だというので、バーンインCDも使ったりしながら、取っ替え引っ替え聞いた。CD-16を長い間聞いておらず、換装前と後を直接比較できなかったので、SA-12S1やアナログとの比較や、現在の自分の聴感での比較になる。

音が出た瞬間から全体のクォリティが大幅に良くなっているのが分かる。彫りが深くなって、奥行きや存在感など音場が改善されるだけでなく、エネルギー的な踏み込みもぐっと良くなる。音場の広がり、雰囲気のようなものがドット出てくる感じで、特にシンバルのスティックの当たるコツン&シャーンという感じがかなり良くなる。録音の良いCDほど、効果が高い。

クロック換装CD-16のデジタルアウトの音はSA-12S1のCDの音を軽く越えている。SA-12S1を導入したときに、デジタルアウトで聞き比べて、「負けた!」と思ってお蔵入りにしたのだが、CDについては圧倒的に「勝ってしまった!」わけだ。
SACDには良い録音のがまだ余り無いので正確には言えないのだが、かなりそれに迫っている事は間違いない。勿論、SACDもクロック換装してやらないと、同じ土俵の上とは言えないのだけれど。

③ブリテンの無伴奏チェロソナタ(P.ウイスペルウエイ/channel classics)でCDとSACDを両方持っていたので、同時にかけて切り替えたりも含めて聞いてみた。CDの方が全体にオンな感じで、エネルギー感が高い。SACDは少し後方に引く感じでややオフな、空気感と広がりのある音場を形成する音だ。これは好みの問題になるかもしれない。SACDの方がHiFi度は高いが、エネルギーではCDと言う感じだ。

④ハイブリッドの場合は総じてCDの分が悪いが、これはフォーマットの問題なのか、音源からのマスタリングの問題なのかは分からない。チック・コリアのNYランデブーもCD層は音が悪い。

全体としてCDの音が「シリアス」になる。つまり聴き応えのある感じになる。

⑥クラシックのCDは何せ手持ちがほとんど無いので、大きな事は言えないが、鈴木秀美さんのC.P.E.バッハのコンチェルトもなかなかいい。
 ツインマーマンのショパンのピアノコンチェルトのCDなど、どきっとするような箇所が出てくる。クラシックのCDを最後まで聞く気になるなんて珍しいことだ。

⑦LPとの比較ではやはり及ばないものがあり、アナログを凌駕するというわけにはいかない。この点ではSACDもいまだしの感がある。

6.結論

◆クロック換装はCDプレーヤーの音質を大幅に向上させる。基本的な音の傾向はあまり変わらず、全体としてのクォリティがアップする。CDしか聞いていないという人には全体の音質向上が実現するわけだ。

◆高精度なクロックは生産量が少なく、高コストになるため、メーカー製品では通常100ppmから、エソテリックP-70VUで3ppmと言ったところ。(今回換装分は0.1ppm)今後も相当の高価格帯の製品でないと、高精度クロックが搭載される可能性は低い。

ユニバーサルプレーヤー化が進んでいる現在、しっかりとしたオーディオCD専用メカは貴重な存在になりつつある。一方で、これまで使用してきたCDプレーヤーはアナログ回路などが多かれ少なかれ劣化しているだろうし、デジタル回路は年々進化していき、DAC部分の陳腐化は急速に進む。単体DACの普及も進んでいる中、CD専用プレーヤーのクロックを換装して高精度なCDトランスポートとして生まれ変わらせるのは、結構経済的な投資だと思う。1ppmでもグレードは上がるので、十分効果は出るだろう。

◆ただし、アナログを凌駕する、と言うものではない。その点で一定の枠はあると思うが、我が家においてCDは日常のお総菜で、LPがご馳走、SACDがそれに次ぐ、というこれまでの意識は、今後少し変わってくるだろう。どれもそれなりの聞き応えが出てくる、という期待が持てる。

 以上が現段階での感想です。満足しているかって?
いやあ、も少しいろいろと見極めてから、と自分に言い聞かせてますが、これに味を占めて、実はSACDのクロック換装を考えはじめました。機器によってはSACD、CD、DVDとみな別のクロックを使っている場合もあり、その時はどのクロックを換装するか決断しなければならないそうです。デジタルもまた楽し、という感じになってきました。('04.4.14)


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