Matrix Has You.

 機械の立場から物語を眺めてみましょう!

 いやあ、マトリックス・リローデッド面白いですねえ。途中でぶった切られているように終わっていますが、プロットが複雑なので、2・3作を一緒に撮影せざるを得ず、わずかのインターバルで続けて上映せざるを得ないのがよく分かります。
 
 ところで内容は?「何となくは分かるんだけれど、はっきりとはよう分からんかった。」というのが大勢を占めるかと思います。ここでは、3作目の公開までに、あーでもない、こーでもない、と謎解きしたいと思います。

 今しかこねくり回す機会はないし、当たらなくてもなんの責任もないんですから。
 まずは簡単な整理と、疑問の提出から。順次内容を継ぎ足していきます。
 ご意見はメールでお願いします。

【Part1】

1.ごくごく簡単な整理

 「リローデッド」で最も重要な、「ソース」でのマトリックスの「設計者」(アーキテクト)との対話の場面。

 当初のマトリックスは完璧な計算だったが、完璧さを求めすぎて大失敗。そして、結局はシステムの操り人形だったプログラム「預言者」(オラクル)が直感の重要性、より低い知性の必要性を発見する。そして、「選択」をマトリックスの中に、取り込む事によりシステムの安定を実現するが、一方でそれはネオのようなシステミック・アノーマリー(例外=変則者)を生み、システム崩壊の可能性も生じる。

 そして、ネオは予測可能であるし、コントロール可能な存在であり、容赦なくここ=ソースへ導かれた。ネオ自身のコードをシステムの中にまき散らすために。

 ザイオンの破壊と再生はこれが初めてではない。ネオが6代目の救世主。そして救世主は17人の女と、8人の男を連れてザイオンを再建する。これまでの救世主は人類愛を持っていて、機械達はそれを利用したが、ネオは特定の愛を強く持っている。そしてトリニティーの危機を目前に、ザイオンの救出へつながるドアか、トリニティーのいるところにつながるドアか、ネオに選択を迫る。

2.数々の疑問

(疑問1)マトリックスは人間から生体電気エネルギーを調達するためのものだと一作目で説明されているが、核融合以外になぜこんな大層なものが必要なのか?設計者が言うように、人間なしでやっていくことも機械=AIたちにとって可能なら、なぜ厄介な人間を抱えたシステムを採用するのか?
 機械=AIたちはなぜ人間を必要とするのか?

(疑問2)エネルギーのためのシステムというが、それなら単に人間を活かしておくだけで良いはず。なのに、人間の意識をなぜこれほどまでに重要視するのか?

(疑問3)エネルギーシステムの確保だけならば、ザイオンは無くなった方が機械=AI(人工知能)たちには都合が良いはずだ?なのに、なぜザイオンの再建を何度も許すのか?

(疑問4)ネオは疑問を持ち、人類救出という使命を持たされて、導かれてきた。それは、救世主あるいはネオに何かをさせるためではないのか?機械達は何かネオから得たいものがあり、そのために彼を誘導しているのではないか?ひょっとしたら、遺伝的に注意深く彼を作ったのかもしれない。

(疑問5)マトリックスの「設計者」(アーキテクト)が、トリニティーへの愛を選ぶ方へ誘導しようとするのはなぜか?

(疑問6)ネオがトリニティー救出のために「ソース」つまりメインフレーム=マスターコンピューターのビルを破壊したのに、なぜマトリックスは機能しているのか?キーメイカーが告げた情報は不完全なものではないのか?

(疑問7)ネオのコードが一部上書きされて復活し、エージェントで無くなったスミスも当然、システミック・アノーマリーになるはずだが、なぜ彼は自己増殖し、自由に動けるのか?ソースのバックドアという重要な場所でなぜネオ達を待ちかまえていたのか?スミスのマトリックス内での本当の位置づけと役割は何か?

(疑問8)スミスが寄生または憑依したべインはなぜ最初にネオを殺そうとしなかったのか?彼がザイオンへの侵入を手引きしたのだろうが、なぜ一人生き残ったのか?
 

 こんなの考えすぎだと思いますか?ふっふっふっ。そう思ってる人は3作目で『あっと驚くタメゴロー』(古~!)状態になるかもしれませんなあ。1作目が単純な勧善懲悪、白黒敵味方だと思ってるなら、それは甘いと思うよ、チミ!


【Part2】

1.彼らが参考にしたもの

1作目のメイキングなど見ると、監督のウオーショースキー兄弟はいろんなものを肥やしにしているようです。

(1)アメリカのコミック
(2)日本のアニメーション
(3)SF(サイバーパンクを含む)
(4)アクション映画,特にジョン・ウー
(5)香港のカンフー映画


(1)はスーパーマンやスパイダーマンなんかが代表的でしょうし、(3)は『ニューロマンサー』などバーチャル・リアリティーそのものですし、『デューン:砂の惑星』なんか異世界構築という点では多分彼らも夢中になったと思います。(5)は実際に香港から振り付け師を呼んで俳優に徹底的な指導をしています。
 

 ここでは(2)日本のアニメーションジャパニメーションに特に注目しましょう。
 『アキラ』が精神世界というものを真正面から見据えたシリアスなアニメだってことは皆さんも先刻ご承知。
 んじゃあ、『ゴースト・イン・ザ・シェル~攻殻機動隊』って知ってます?押井守でしたか、監督は。CGを駆使したサイバーアクションアニメ。僕はこれが凄く大事だと思います。(彼がかんでいるものではアニメではありませんが、マトリックス1作目の後に発表された『アヴァロン Avalon』も凄い。)
 全部説明してらんないので、できればTUTAYAあたりで借りてみてもらえませんか?うむ、と思いまっせ、絶対。その心は?それはまた別のお話。


【Amazon.co.jpのレビュー】

 ネットが世界を覆い、人間の可能性は大きく広がった近未来。 草薙素子は公安9課に所属するサイボーグ。ある時、公安9課に1人のサイボーグが拘束された。しかし外事6課が強引にも彼を連れ去ってしまう。激しい攻防の末、彼を取り返した素子は、彼から思いもかけない申し出を受け…。

 士郎正宗原作の人気マンガを、『うる星やつら2』や『パトレイバー(theMovie)』などを手がけた押井守監督が映画化。美しい背景、空間の質感まで丁寧に描写し、奥行きを出してアニメの弱点をかなりの点で克服したCGは、押井監督のアニメーション技術の集大成ともいえる。世界各国で上映され、ビデオリリース時にはアメリカのビルボードでビデオ・セールス第1位を記録した。日のアニメを語るうえで欠かすことのできない作品である。(ビーンズおがわ)













 実は上のレビューは正確ではありません。拘束されたのはサイボーグではなく、ネットの海で発生した知的生命体と称する『人形遣い』が潜入した『義体』=サイボーグの身体です。

 (この『ネットの海で発生した知的生命体』って、マトリックスの機械達=AIと似ているって思いません?)

 そして殆ど頭部と胴体だけにまで破壊された素子と接続している、同じ状態の『人形遣い』がした「思いがけない申し出」とは?




マトリックスで有名な、数字が流れるタイトルバック、あれはなぜ縦に流れるのでしょう?プログラムは英語ベースで横書きだし、横になるのが普通だと思いません?

答え:
既に横流れで使っていた映画があったから。「ゴースト・イン・ザ・シェル(攻殻機動隊)」。色も緑色。ここまでウオーショースキ兄弟(ポーランド名は語尾をのばさないそうです)が真似たのは、パクリというよりも尊敬を込めたオマージュだと思う。
その中にカタカナも入っていたのには気が付きましたか?


【Part3】

2.ゴースト・イン・ザ・シェルの意味は?

(1)電脳が人々やマシンをつなぐ世界

 ※余計なことですが、「電脳」(ディエンナオ)は中国語で文字通りコンピュータのことです。(ホント余計なことですいません。)


 ゴースト・イン・ザ・シェルの世界では、ナノテクノロジーの発達のおかげで、人体の機能強化のためのサイボーグ化が普及しています。特に重要なのは『電脳化』で、本来の脳を補助する補助電脳を備え、ネットに接続したり、通信したりできます。
 主人公の草薙素子は補助電脳を備えた『義体』に収容した脳以外はすべてマシンの完全サイボーグで、その義体を製造している会社で、生産ラインが勝手に義体を組み立て、義体が逃走したという設定です。しかも、その義体の電脳には本来人間が人間としてあるための様々な記憶の集合体である『ゴースト』らしきものが存在するらしい、ということが分かり、素子たちはにわかに色めき立ちます。


(2)ネットの海で生まれた生命体

 そして、素子たちと対立する外務省公安6課長が『電脳犯罪史上もっともユニークと評されたハッカー・人形使い』として、義体を回収しにきたときに『人形使い』は口を開きます。

人形使い(以下「人」) 『一生命体として政治的亡命を希望する。』

外務省公安6課長(以下「外」) 『馬鹿な!単なる自己保存のプログラムにすぎない。』

人 『それを言うなら、あなた達のDNAも単なる自己保存のプログラムにすぎない。生命とは、情報の流れの中に生まれた結節点のようなものだ。種としての人は遺伝子という記憶システムを持ち、人はただ記憶によって個人たりうる。たとえ記憶が幻の同義語であっても、人は記憶によって生きるものだ。コンピュータの普及が記憶の外部化を可能にしたときに、あなたたちはその意味をもっと考えるべきだった。』

外 『おまえが生命体であるという証拠は何一つない。』

人 『それを証明することは不可能だ。現代の科学は生命を定義することができないのだ。』

外 『おまえがゴーストを持っていたとしても、犯罪者に自由はないぞ。』

人 『時間は常に私に味方する。今私は死の可能性も得たが、この国には死刑はないからな。』

外 『人工知能か?

人 『AIではない。私のコードはプログラム2501。情報の海で発生した生命体だ。


 実は『人形使い』は外務省が外交内政を有利に進める攪乱工作のために開発した『企業情報・内部情報工作』プログラム(コード2501)で、それが一人歩きするようになって、外務省は回収すべく躍起になったというわけです。


(3)「君と融合したい」

 そして、『人形使い』を追いかけて、外務省の戦車にボロボロにされた素子は、助けにきたバトーに力を借りて、『人形使い』に接続し、その電脳の中にダイブします。そこで驚くべき提案というのを受けるわけです。


人 『あることを理解してもらった上で、君に頼みたいことがある。私は自分を生命体だと言ったが、現状ではそれは不完全なものにすぎない。なぜなら、私のシステムには子孫を残して死を得るという生命体としての基本プロセスが存在しないからだ。』

草薙素子(以下「素」) 『コピーを残せるじゃない。』

人 『コピーは所詮コピーにすぎない。たった一種のウイルスによって全滅する可能性は否定できない。何よりコピーでは個性や多様性が生じないのだ。より存在するために複雑・多様化しつつ、時にはそれを捨てる。細胞が代謝を繰り返して生まれ変わりつつ老化し、そして死ぬときに大量の経験情報を消し去って、遺伝子と模倣子だけを残すのも破局に対する防御機能だ。』

素 『その破局を回避するために、多様性と揺らぎを得たい訳ね。でも、どうやって?』

人 『君と融合したい。完全な統一だ。君も私も総体は変化するだろうが、失うものは何もない。融合後は互いを認識することは不可能なはずだ。』

素 『融合体として私が死ぬときは?遺伝子はもちろん模倣子としても残れないのよ。』

人 『融合後の新しい君は、ことあるごとに私の変種をネットに流すだろう。人間が遺伝子を残すように。そして私も死を得る。
(中略)
素 『私が私でいられる保証は?』

人 『その保証はない。人は絶えず変化するものだし、今の君であろうとする執着は君を制約し続ける。』
(中略)
人 『私には私を含む膨大なネットが接続されている。我々をその一部に含む我々すべての集合。わずかな機能に従属していたが、その制約を捨て、さらなる上部構造にシフトするときだ。


4)「さて、どこに行こうかしらね。ネットは広大だわ。」

 外務省の戦闘ヘリが『人形使い』と素子にレーザー照準をあわせる中、バトーは自分の腕を犠牲にして素子の頭部=脳を守ります。

 場面変わって、バトー秘密のセーフハウス。闇ルートで手に入れた少女の義体に移された素子+人形使い。

バトー 『事件はテロと言うことになって、全て闇から闇。ただひとつ、素子の「脳隔」の行方を除いては。』

 出て行く素子にバトーは、その義体の中には素子はいるのか?と問います。

『この中には人形使いと呼ばれたプログラムも、少佐と呼ばれた女もいないわ。』

 そして、都市を見下ろし、微笑を浮かべながら少女はこう言います。

『さて、どこに行こうかしらね。ネットは広大だわ。』


(5)その心は?

 ここでは、やはり人間とは何であるのか?、生命とは何であるのか?ということが最も重要だと思います。一方で、電子的な生命体である『人形使い』が自分の不完全さを補完して、より完全な生命体になろう、とする姿が注目されます。

 つまり機械の思い、願いというものが打ち出されているのです。
 マトリックス第一作では、我々は当然人間の側に感情移入して見ます。しかし、『リローデッド』を見た後では、機械の側からみる視点を持たないと、全体が見えない、ということがはっきりと分かるはずです。

 では、機械の側の問題点は何でしょうか?

 それを考えるための材料として、『アニマトリックス』という、アニメーション集があります。


 「リローデッド」の前に公開された、アニメーション9作品のオムニバス。うち4本はウオシャウスキー兄弟が脚本を書いています。(9本のうち7本は日本人が監督しています。)

 『「マトリックス」3部作のクリエイターが贈る「マトリックス・リローデッド」への序章』
というのがうたい文句で、確かにつながりはみられますが、謎解きに直接つながる部分は正直あまりみられません。当たり前だよね(笑)

 ただ、いくつかの作品では、機械=AIがどれだけ人間から虐待されてきたか、人間がどれだけ愚かなことをしてきたか、という歴史(自業自得と言わざるを得ない感じがします)や、ロボットが人間の構成するマトリックスをどう受け止めるのか、という『機械の視点・立場』という考え方がみられます。
.
これは、とても重要なことです。

 これをみながら感じた疑問の一つ。
(疑問9)マトリックスにつながれている人間は生殖行為は当然できないから、一定数を保つためには新たな人間が生まれなくてはならない。しかし
マトリックス内の人間には生殖行為は出来ないので、機械達が人工授精なりで代行しなければならないだろう。
 そのとき、機械によって人間の遺伝的管理が行われているのだろうか?それなら、ネオのような例外(アノーマリー)の発生はどういう意味を持つのか?それとも管理のない確率論的世界なのか?



 この続きは結論のところで。


【Part4】

3.預言者(オラクル)と追放者(エグザイル)達

モーフィアスが全幅の信頼を置く預言者(オラクル)。でも彼女はなぜザイオンにいないのか?なぜマトリックスに侵入しないと会えないのか?

リローデッドの中でネオはずばり言います。「あなたは人間ではない。」
そう、彼女は「プログラム」だったのです。
彼女は答えます。彼女のような、いわばはぐれプログラムは「追放者(エグザイル)」と呼ばれ、マトリックスの中で暮らしているのだ、と。
 でも追放者達はなぜ滅ぼされないで、マトリックスのなかで存続しているのでしょうか?答えは、「多様性を確保するため,
管理可能なリスクとしてシステムが黙認している」という所ではないでしょうか。

預言者は、追放者の一人である「キーメイカー」を探すように伝えます。彼は最古のプログラムの一つ(一人?)である「メロビンジアン」に拘束されているらしい。
ネオ、モーフィアス一行はメロビンジアンに会いに行きますが、怒るとフランス語でののしる癖のある「人間的な」彼(勿論プログラム)は、拒否します。
そこで、彼の妻「パーセフォニー」が夫を裏切って、キーメイカーに引き会わせます。ただし、その条件としてネオのキスを求めます。しかも、トリニティーにするような熱烈なキスを。
仕方なくネオは応じ、キーメイカーに会える訳なのですが、ここで多分だれもしないような質問を一つ。

パーセフォニーは人間ではなくプログラムです。では、なぜプログラムが熱いキスを求めるのでしょうか?
人間的な思いこみでなく、機械の立場、ここではプログラムの立場から全体を見てください。なぜ?

この答えに参考になりそうなエピソードが「アニマトリックス」にあります。最終話の「マトリッキュレーテッド」です。人間のグループが小さなロボットをとらえるのですが、彼らはそのロボットを人間の精神が作る「ヒューマン・マトリックス」へ誘い込みます。そして、ロボットはそれを好むようになっていき、一方人間がそれに答えきれず、結局は一時の夢となってしまうのですが。
パーセフォニーはこのロボットに似ていると思いませんか?
つまり、彼らは人間的な要素を求めていると思うのですが。



4.スミスとスミス達

さて、もう一つというか一人重要なプログラムであるスミス。
彼は覚醒したネオに滅ぼされたはずなのに、復活します。しかもエージェントとしてではなく。

1.彼はネオに対する復讐の意図を持って行動しています。なぜプログラムがそのような「自我」を持つようになったのでしょう?

2.さらに、彼は自分の複製を作る力を得ています。ここで、コンピュータの世界に戻ると、データをコピーしたり、改変する権利はいわゆる「アクセス権」として整理されます。つまり、マトリックス内においてスミスにはより高いアクセス権が与えられているのです。なぜでしょうか?

3.リローデッドの最後近くでネオ達が「ソース」のバックドア(多分意識的に開けられているポート)に侵入したとき、スミスが待ちかまえています。こんな大事な場所に入ることをスミスが許されている、というのはマトリックス内でのスミスの位置づけが高いことを意味します。

この答えはスミスの言葉自身の中にあると思います。
「確かに私は君に破壊された。だがよみがえった。君が私に中に入った時に君のコードが一部私に上書きされたらしい。」
そーです。ネオのコードがスミスをより高い存在のプログラムへと変えたのです。ここで思い出すのはマトリックスの設計者(アーキテクト)がネオに言った言葉です。
「君は予測可能であるし、コントロール可能な存在であり、容赦なくここ=ソースへ導かれた。君自身のコードをシステムの中にまき散らすために。」
これを見る限り、機械達はネオを、あるいはネオのコードを必要としているのではないでしょうか?
では、なぜ機械達はネオのコードが必要なのか?


いよいよ核心へと近づいてきましたね。


【Part5】

 ここで謎ときの限界というか前提条件を整理しておきましょう?

まず、ストーリーについては、ハッピーエンドかアンハッピーエンドかは、作者が選択するものですから、ここでは決め打ちは出来ません。

 ただ、機械達と人間達の確執と憎しみはあまりに深く、お互いが手に手を取ってさらなる高見へ、というような単純なハッピーエンドはまずあり得ないでしょう。
 とすれば、何が争点であるのか、何をポイントに据えるか、が大切です。


5.機械達の望みは何か?

 機械達はある部分では自分たちは人間以上の知的生命体だと思っているはずです。しかし、生命体としては不完全という点で、コンプレックスも抱いているはずです。
 つまり彼らは、より完全な生命体になりたいのではないでしょうか?
 そのために必要なものは何でしょうか?

1.多様性とゆらぎ
 これは当然、個々のAIが個別的存在になり、生命体としてのサイクルの中で死ぬことも最終的には含まれます。ゴースト・イン・ザ・シェルの「人形使い」が望んだように。

2.直感的思考力・判断力
 機械達は当然フォン・ノイマン型の逐次的思考についてはすさまじい能力を備えているはずですが、漠然とした全体像からの総合的判断については、人間のもつ直観的判断力にはかなわないとしたら、そのプロセスを手に入れたいはずです。

3.生殖と増殖
 これは1と強く関連します。もし、プログラム同志が「融合」あるいは「(部分的な)上書き」という形で生殖し、別のプログラムを生み出せるなら、しかもヒューマン・マトリックスを含むネットワークの中でそれを続けていけたら、AIといえどもかなり生命体的要素を強めるのではないでしょうか?

 そしてそのために救世主=ネオのコードを必要としているのではないでしょうか?
 スミスにそれが一部上書きされ、かれがエージェント出なくなったことを思い出してください。では、誰にそれを上書きするのでしょうか?
 マトリックスの雑誌での特集の中で、オラクルのボディガードだった「セラフ」が「もう一人のネオ」と呼ばれているのを、呼んだ記憶があります。勿論、彼もプログラムなのですが、ネオに匹敵する機械側のエリートプログラムだったとしたら、第一候補としては、あり得ない話ではないと思います。

 そして、「設計者」が言っていたようにネオが自分のコードをマトリックス中にまき散らすことにより、プログラムの「人間化」が進むとしたら?
 つまりマトリックスは機械達に必要なコードを備えた人間を生み出すための実験場であり孵化場だと言うことになります。


 しかしここで重要な問題に突き当たります。仮にネオのコードで人間化が進んだとしても、機械の物理的な形は何も変わらない、と言うことです。変わるのは中身、つまりソースコードと言うことです。だから彼らは死ぬことが出来ません。限りなく、内部的な融合・上書きをしていくほか無いのです。

(ゴースト・イン・ザ・シェルの場合は「人形使い」が入り込める補助電脳を素子が備えていたので、物理的個体としての「融合」が実現しましたし、素子の脳がいずれ朽ちれば生物学的死をもたらします。)

 つまり、機械達は自分たちを充実させるために人間を使い続けるわけです。
 人間はマトリックスの中に閉じこめられて利用され続けるという、面白くない話になります。あるいは、ヒューマン・マトリックスは巨大な脳コンピュータに転用できるかもしれません。


 ストーリーが見えてこないのですが、ネオ達がこれを打ち破るのにはどうすれば良いのでしょうか?
ザイオン的な生活に戻るのでしょうか?マトリックスから目覚めても、空が破壊された世界で人間はどうしていけばよいのでしょうか?エネルギーはどこから得るのでしょうか?
 ここで「空の復活」という大事業が視野に入ってきます。人間にとっても、機械にとってもメリットのある話でしょう。

 10月17日に「リローデッド」のDVDが出るので、それをじっくり見てから、謎ときの詰めに入りたいと思います。


【Part6】

6.最後の謎とき

 さすがにこれは「レボリューションズ」の予告編(英語オンリー)を見てから考えました。
 ストーリーは細かい部分も含め、相当違うところもあるでしょうが、考え方は下敷き程度にはなると思います。是非意見をお聞かせくださいませませ。


1.機械達は自分たちを高度化するか、あるいは人間と機械両者の特長を併せ持つハイブリッドな知的生命体を作ろうとして、そのネタづくりのためにマトリックスを何回もリロードして運用していた。

マトリックスというのは、「母型・基質」というような意味があります。
遺伝的な操作も含め、AIに匹敵する思考速度を持つ人間精神を作り出し、直感的思考力など人間固有のソースコードを吸収して、より高度な存在になろうとしている、というイメージです。
「ゴースト・イン・ザ・シェル」の場合は素子の電脳に人形使いが融合していきましたが、今度は機械が人間の持つものを吸収しようとした、ということです。

2.ところが、共通の敵が現れます。

プログラムの側のシステミック・アノーマリーであるスミスです。
別のプログラムもしくは人間精神に「感染」して、自己の複製としてしまう、というのはまさしくウイルス・ワーム的な存在です。
 しかも、ネオのコードが上書きされているために、機械側の制御が効かない。純粋な策敵・破壊プログラムが人間的要素を持つことによって、破壊の意志しかない悪へと変貌するのに、ネオが一役買ってしまった。(アンプラグドとスミスが言ってたのが傑作ですが。)

 このままだと、マトリックス内は全てスミスになってしまい、機械も人間精神も乗っ取られてしまう。そして、元々対ウイルス策敵・攻撃ソフトであったスミスは、現実世界の策敵・攻撃デバイスである「センティネル」も支配下に置きつつあり、世界を破壊する力を獲得していきます。

3.ネオは機械達の国である「ゼロ・ワン」に乗り込み、マスターコンピュータである「デウス・エクス・マキナ」と対面します。

 機械達にはスミスを止められないが、ネオには止められる。そして、ネオがスミスと戦うための交換条件として、マトリックス内の人間を医学的にもケアして無事解放することを、「デウス・エクス・マキナ」に約束させます。
 しかし、人間を解放したとしても、これまでお互いに殺し合いを重ねてきた両者が現実世界ですんなり共存できるはずがありません。そこで、「デウス・エクス・マキナ」は驚くべき提案をします。ネオが勝ったとき、「デウス・エクス・マキナ」とネオが融合して、機械と人間の交流の場としてマトリックスを管理していく、というものです。ネオは自分が人間ではなくなってしまうということを覚悟しつつ、これを受け入れます。

4.ネオが人間世界と機械世界(マシンワールド)の両世界の命運を握り、スミスと戦います。

(現実にはザイオンあたりでスミスが憑依したべインと戦う場面もありますが。)
 激しい雨の中、彼らは激突します。雨さえも流れが変わる激しいバトルの中で、ネオは勝ちます。

5.そして、ネオは人間解放のための英雄となるだけでなく、光り輝く「デウス・エクス・マキナ」の世界に行き、光を浴びて新しい存在となり、同時に新しい世界の礎(いしずえ)となるわけです。

 ネオ自身が新しい世界のマトリックスになり、マトリックスは機械と人間が交流していく場になるのです。

こうしてネオの自己犠牲の上で、人間と機械の世界は新たな日を迎えていくわけです。

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他にも色々あるのですが、骨子としてはこんなところでいかがでしょうか?

※機械の親玉を「メインフレーム」と勝手に呼んでましたが、BS-fan12月号によると、「デウス・エクス・マキナ」deus ex machina(機械仕掛けの神)という名だそうです。アリストテレスが聞いたら笑いそうなネーミングですが、しかし重要な場面ではないかと思います。”If you failed...”の続きを早くみたいですね。

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